理系の地位向上による人命救助
I.科学技術の負の面ばかりを強調するのは正しくない
1.科学技術の発展による人命救助
科学技術というと、環境破壊や戦争など負の面ばかりが語られることがあります。
しかし、科学技術の発展については、負の面ばかりではなく、正の面についても検討していく必要があるでしょう。
科学技術の発展については、「生活が便利になる」という視点では、正の面が比較的語られています。
しかし、科学技術の発展が人命救助になるという視点には、あまり光が当たっていないのではないでしょうか?
特に、理系の地位向上が、科学技術の発展を通じて人命救助につながるという側面は、過小評価されていると思われます。
なお、理系は、科学技術の正の面を伸ばすだけではなく、倫理感を強く持ち、環境破壊や戦争などの科学技術の負の面を抑えていくことも重要と思います。技術者倫理、科学者倫理等が重要なゆえんです。
2.ノーベルについての考察
ノーベルは、ダイナマイトを発明しました。
ダイナマイトにより多くの人命が失われたことは否定できません。科学技術の負の面です。
しかし、ダイナマイトは、平和的な利用法もあり、正の面も有します。
ノーベルの最大の功績は、ノーベル賞を作ったことでしょう。
ノーベル賞は、優秀な理系に対し、社会的に高い評価を与えることで、理系の地位向上に貢献しました。
ノーベル賞は理系に限られるわけではありませんが、特に優秀な理系の地位向上に果たした影響は大きなものがあるでしょう。
ノーベル賞の受賞対象となった研究には、抗生物質など直接人命を救うものが含まれます。
しかし、そのような研究だけが人命を救うわけではありません。
科学技術は全体として進歩するものであり、科学の基礎的な研究は、科学技術水準の上昇、ひいては医療の進歩や公衆の安全に結びつき、人命救助に結びつきます。
これは、理系の地位向上が、科学技術の発展を通じて、人命の救助につながるという側面です。
以下では、科学技術の発展による人命救助が、広範な理系によって支えられていることを示します。
II.広範な理系が支える科学技術の発展による人命救助の例
1.医療の進歩
医療の進歩は、広範な理系によって支えられています。
医療の進歩は、医者や医学研究者だけが担っているわけではありません。
そのことは、病院に行って見れば分かるでしょう。
まず検査機器が挙げられます。
レントゲンは物理学の進歩から生み出されました。最近では、X線CTスキャン、NMR(核磁気共鳴画像法)、ポジトロンCT(PET、陽電子放射断層装置)、超音波診断装置、内視鏡など、ハイテクの診断が行なわれています。血液検査などでも、分析技術等の進歩により、色々なことを分析できるようになりました。遺伝子診断も可能になりました。
これらは、数学、物理、電気、機械、化学、生物、情報など広範な理系の基礎研究が、大きく貢献しています。また、実際の検査装置の設計には、多くの技術者が改良を重ねており、科学の面でも技術の面でも、理工系の貢献は大きいといえるでしょう。
治療機器も進歩しています。
レーザー、低周波、磁気、赤外線、放射線など、理系の基礎研究がもたらした様々な治療機器が用いられています。手術の際に使う道具も、技術者が改良を重ねています。ペースメーカー等の人工臓器も、理系の技術の結晶です。
薬も進歩しています。
薬学の貢献は明らかですが、薬の設計には、化学、生物学、統計学、情報など広範な理系の人々がかかわっています。
治療に使う材料についても新素材等をはじめとして、広範な理系の人々がかかわっています。
医療の進歩は、医者だけではなく、広範な理系によって支えられているのです。
2.公衆衛生や公衆の健康を保つことによる人命救助
公衆衛生や公衆の健康を保つことによる人命救助にも、理系の貢献は甚だ大きなものがあります。
伝染病がどのように伝染するかを実験等により突き止めるには、理系による研究が必要です。
新型インフルエンザが登場しても、理系がいるからこそ、ワクチン等の対処が可能となります。
もし文系しかいなければ、新しい伝染病が発生しても、人々は伝染病に対してワクチンを開発できないでしょう。
伝染病以外にも、理系の研究は健康との関係を究明することで、人命救助に結びついていきます。
たとえば、タバコと健康との因果関係や、生活習慣と健康との関係等の解明には、多くの理系の研究が貢献しました。
インターネット技術、検索技術等の進歩により、健康情報が容易に得られれるようになったのも、理系の貢献でしょう。
理系の研究が、公衆衛生、公衆の健康を保つことにより、人命救助に結びついているのです。
3.災害時の人命救助
災害時の人命救助も、広範な理系によって支えられています。
災害時の人命救助は、救急隊員だけが担っているわけではありません。
災害の予測から、災害の対策の道具、機器、災害時の通信技術等、広範な理系の技術の貢献があるのです。
科学技術の進んでいない国では、小さな災害でも多くの人に被害が出ます。
科学技術の発展による災害時の人命救助の効果は大きいといえるでしょう。
4.安全性の確保による人命救助
災害時ばかりではなく、事故を未然に防止するという意味での人命救助も、広範な理系によって支えられています。
事故防止技術の開発にも、理系の貢献は大きいといえるでしょう。
飛行機が安全に飛ぶのは、理系の科学技術のおかげです。科学技術の進歩により、飛行機は非常に安全になりました。
文系の人だけで、飛行機を安全に飛ばすことは困難でしょう。
安全な自動車、電車、製品、遊具などの開発にも、広範な理系がかかわっています。
5.新しい治療法の進歩による人命救助
新しい治療法についても、広範な理系が研究をしています。
たとえば、難病を治すための遺伝子治療には、ゲノム解析が必要です。そのためには、ゲノム情報を蓄えるコンピューターが必要です。コンピュータを作るためには、電子技術が必要です。そのためには、純度の高いシリコンを作るための化学技術が必要となります。
このように、科学技術は全体として発展するものであり、人類の科学技術水準が全体として上がるために、広範な理系の活躍が必要となります。理系の活躍により、医療の水準が上がり、新しい治療法が開発されれば、人命救助につながるでしょう。
6.環境についての研究、環境技術の進歩による人命救助
環境破壊は科学技術の負の面です。
しかし、環境破壊を乗り越えるための環境技術は、科学技術の正の面です。
科学技術により環境汚染の原因が突き止められていきます。
理系が存在しなかったら、地球温暖化の原因や、オゾンホールの健康への影響なども科学的に解明できません。
文系だけで環境問題に対処することは困難でしょう。
環境関係の科学技術の発展についても、理系の活躍が期待されます。
III.理系の地位向上の重要性
理系の地位向上は、科学技術の水準を全体として引き上げ、ひいては人命救助につながる側面があると考えます。
理系の地位向上の人命救助の効果について、研究を進めていく必要があるでしょう。
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